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[CANNES LIONS 2017 REPORT VOL.3]
-振り返り-

2017.06.28
長いようであっという間だったCANNES LIONS 2017。
全てのアワードが出揃ったので、全体の傾向を振り返ってみようと思います。
あらゆる部門を跨いで受賞していた作品の中で、特に話題になっているものや印象が強く残っているものを並べてみると、大きく3つの方向性があるように思えます。

カンヌ0627_03.jpg


1.社会問題をみんなに議論をさせる。
■「Fearless girl」
男性優位な金融社会の象徴であるウォール・ストリートのシンボルである雄牛の像。そんな男性社会に立ち向かう女性を象徴する新しいシンボルとして、国際女性デーに雄牛の向かいに少女の像を設置した。
MOVIE:https://m.youtube.com/watch?v=KDbDpkKo3xw#action=share

■「MEET GRAHAM」
過去の事故データを解析し、最も交通事故のダメージを受けない肉体を視覚化した人物を作成。「GRAHAM」というオーストラリア人にとって馴染みのある名前をつけ、交通安全を促進した。
MOVIE:https://www.youtube.com/watch?v=7FQpjCauL0w

■「Twitter」
アメリカ大統領選での論点を想起させる写真にハッシュタグのみを置き、Twitterでそれについて発言する事を促進する、OOH(アウトオブホームメディア)を作成。
MOVIE:https://www.youtube.com/watch?v=tZo-ICWShNc


2.社会的マイノリティーにアイデンティティーを確立させる。
■「THE REFUGEE NATION」
昨年のオリンピックでも話題になった"難民選手団"。国旗を持たない彼らの為にライフジャケットをモチーフにした国旗や、難民出身のクリエイターが曲を作成した。
MOVIE:https://www.youtube.com/watch?v=Dkby9BmYrXQ

■「WE'RE THE SUPERHUMAN」
イギリスのテレビ局「Channel4」が作成した、リオネジャネイロ・パラリンピックのコマーシャルムービー。障害を持つミュージシャンやダンサー、スポーツ選手など総勢100名が登場し、"Yes, I can."と唄う。
MOVIE:https://www.youtube.com/watch?v=IocLkk3aYlk


3.社会的弱者に新たなインフラを提供する。
■「BOOST YOUR VOICE」
アメリカ大統領選挙の際、低所得者やマイノリティー層が多く住むエリアで投票所が1000ヵ所近く減らされた。この結果投票の為に何時間も列をつくり待つという事態になり、 これを解消するためスマートフォンチェーンの「boost mobile」が自社の店舗を臨時投票所にし、投票を促すイベントやアプリを作成。
投票率を23%もアップさせた。
MOVIE:https://www.youtube.com/watch?v=TS6EgmjeB3k

■「PAYPHONE BANK」
コロンビアには低所得者層が800万人おり、彼らの平均日給は3.5ドル。多くは銀行口座も持っていないがお金を家に置くには盗難の恐れがある。 そこで街中にある公衆電話に小銭を入れて貯金をできるようにし、さらにそこから携帯電話経由で様々な支払いもできるようにした。
MOVIE:https://www.youtube.com/watch?v=_k_TbDmbG5g



もちろんこれ以外に、あまりシリアスでないものでトロフィーを集めた作品もありますが、
改めて「広告祭」ではなく「国際クリエイティビティ・フェスティバル」なんだなと感じました。
企業などのメッセージを伝えるに留まらず、あくまで世界の人々を主役にした上で彼らをどう動かすか? 何を気づかせるか? どう助けるか? を目的とした、受け手ありきで完成するクリエイティブが評価を得るのだと。
「世界を変える」というと大げさかもしれません。しかし、人の意識を変える事は、結局人で構成された世界を変える事でもあるのです。世の中に対して価値を提供する事をビジョンにした企業や団体と、
彼らのビジョンに添い、一緒に目的を実現する。この仕事をする上である種当たり前の事ですが、ひとたび作業に飲み込まれると忘れがちな考え方です。

最後に、現地を視察した2名のスタッフの感想とともにレポートを締めさせて頂きます。


【QUADRA Planner & Director / 阿部達也】
「カンヌを視察するとモチベーションが高まる。」というのは噂通りでした。いい作品は作りたい意欲を促進すると言いますが、世界中の優れた作品をすごい数見られるという環境でそれが一週間続くわけですから、それはもうものすごく"いい仕事がしたい"という気分にはなるものです。
ただ、じゃあ"いい仕事"ってどうやったらできるんだ?という部分への気づきがないままにしてしまうと、これもよく聞く「帰国後3日でモチベーションが冷める。」という状況になってしまうのかなと思います。
こうやってレポートを書きつつもまだ情報を完全には咀嚼しきれていないので、この熱が冷める前に、「どのような要素が普段の仕事を"いい仕事"にする為に必要なのか」を分析し、今日からの仕事で使えるメソッドを生み出し、来年のカンヌにエントリー作品とともに舞い戻れるようにこの一年頑張ろうと思います。

【QUADRA Designer / 松岡明日香】
サイバー部門でグランプリが3つも出たのは、それほどデジタル分野が社会に与える影響がきちんと評価されていることを意味しているのだと思うので、Digital Creative & Experience Studioの名を冠するクアドラにとってとても良い傾向だと思いました。
サイバー部門の審査委員長コリーン・デコルシー氏が、Design・Technology・Advertising・For goodなどあらゆる領域が「It's all here.」と授賞式で話していたのも印象的でした。 「デザインはすべての領域を縫い合わせていく糸」というのは2008年にデザイン部門の審査委員長を務めたロドニー・フィッチ氏の言葉です。それは2017年の今も変わりませんが、とりわけ多角化しているデジタルクリエイティブの世界では、その糸を更に強靭なものにすべく日々精進しなければならないと強く感じました。
そのためには心の中にプロデューサー魂・プランナー魂・エンジニア魂...すべての領域の魂を持った上でデザインするくらいの心持ちが必要だと思いました。デジタル分野でデザイナーでいれることに対してワクワクが止まりません。 とてもポジティブな意味で、とんでもない職業に就いてしまったなという気持ちです。


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最後までお読みいただきありがとうございました。
詳細はピラミッドフィルムクアドラのFacebookページをご覧ください。